水曜哲学会

第1回 2021年3月3日(水) 午後3時より

 辻 誠一郎 先生
 縄文人にとっての景観あるいは景観生態系

ようやくたどり着いた「地球生命人類史観」という歴史観と、そこから見えてくる「縄文人にとっての景観あるいは景観生態系」についてお話しできればと思っております。景観あるいは景観生態系とは、人間主体環境系という地球生態系であり、人間の生活様式や生き方・生き様が表現されているものです。文化や言語をも表現型として生態系をかたちづくるものです。
歴史学では縄文時代は先史時代であって、とりわけ文献史学では歴史研究の対象外でしたが、地球生命人類史においては最後の一万年にすぎません。文献史学の歴史時代はその最後にぶら下がっているほんの二千年程度にすぎません。それなのに、生き方の一つにすぎない科学という武器をもって地球生態系を一瞬に虫食んでしまいました。
私たちが人間性を喪失することなく、絶滅を速めることなく、人間主体環境系という地球生態系を維持していくために、縄文人の生きざまを地球生命人類史観から紐解いて、科学か非科学かを問わず、そこから未来の生き方を描き出していかなければならないと考えています。私が地球史にこだわるのは、地球あっての人類であって、いまも生きている(運動している)地球に人類は生かされているからです。

非科学の時代とされてきた縄文時代(原始時代という失礼な言い方も流行していますが)をとりあげてお話ししたいと思います。

ご紹介

 辻誠一郎先生は、昭和27(1952)年、滋賀県草津市のお生まれです。昭和48(1973)年、東北大学理学部生物学科の相馬寛吉先生のもとで、花粉学の実験・研究に没頭されたのを皮切りに、以降、植物・植生史学、地質学、鉱物学、考古学、縄文学、酒学と、そのご関心の方向は実に多岐にわたり、つねに現場を離れることのないご研究によって、多くの実りを生んでこられました。そのフィールドは、縄文の三内丸山遺跡から、カナディアンロッキーの植物相と地形、パキスタンのインダス文明関連遺跡、ロシア、サハリン州の新石器時代からオホーツク文化の遺跡、韓国南東部の新石器時代以降の遺跡と驚くべき多様さです。その成果の一端は、オランダ・ライデン植物園における国際展示「日本の伝統朝顔」展、国立歴史民俗博物館の企画展示「海を渡った華花」「くらしの植物苑」、また是川縄文館・東京大学共同研究企画展示「是川縄文ムラを観る・描く──人と風と草木のものがたり」など、一般向けの展観によってもうかがい知ることができます。また、10代後半には、西田幾多郎の「禅の思想」に親近された経験もお持ちです。
 今回のお話は、縄文に焦点を合わせ、その生活と文化の知られざる核心と全容に迫っていただくというものです。自然との対話のかたち、社会構造と祭祀、食物連鎖と死生観など、いまだ多くの謎に包まれた部分に光を投げていただきます。

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