いま、あらためて「近代の終焉」がいわれる。そこには、かつての「近代の超克」「世界史の終焉」などより、さらに深刻で本質的な意味がはらまれている。身体を具え、知性と感性をもった人間がよりよく生きるために、世界と向き合って、そのつど新たに理解し、構造的な知を開いていこうと努めること、このおよそ哲学思想を成立させる条件が崩壊していることを意味しているからだ。
IT革命からほぼ半世紀、ビッグデータとAIに象徴される、巨大な情報の集積からくる万能感は世の耳目を奪い、意識されないリアリティの変容をともなって、一つの世界像として一元的に支配していくかにみえる。これは近代合理主義の到達点なのだろうか。それとも鬼っ子というべきなのだろうか。
こうした状況の中で、今日の哲学思想は、底深い閉塞状況に閉ざされている。グーテンベルク革命以後数百年、また18世紀科学革命以降三百年、その間希望と理想をもって語られ、積み重ねられてきたすべての思索と実践がいまやその意義を失効し、壮大な転換を求められている。西洋に起源を有する「近代」の枠にとどまっていては、もはや突破口が見出しえないということは、もはや誰もが暗黙の了解として共有するところである。
いまこそあらためて、「近代」に由来するものではない思考の端緒を探求し、これまで排除されてきた着想の種子を掘り起こして、未知なる天窓を押し開き、「近代の外」に吹き渡る風を引き込むことが求められているのではないか。そしてそこに、これまでとまったく異なる新しい哲学が築かれなければならないのではないか。もちろんそれはあまりに大きすぎる課題ではあるが、それでも私たちはそこから逃れることはできない。未来に向けて人類がなおも希望と理想を持とうとするならば、哲学の再構築は緊急不可欠の課題である。
ここに未来哲学研究所を立ち上げるのは、志を同じくする者たちによって、叡知を集め、議論を重ね、この未来の哲学を構築すべく、橋頭堡を築くためである。西洋のみならず、東洋哲学へも十分な目配りをしつつ、日本という場に即した本当の哲学の生成へ向けて、その第一歩を進めければならない。それには、従来ともすれば見逃されてきたジェンダーの問題や弱者、少数者などの立場が考慮されなければならず、また、生者と現世の問題に局限せず、死や死者の問題にも十分な配慮をすることも必要となってくるであろう。
研究所の具体的な活動としては、少人数の研究会、公開シンポジウム・講演会、機関誌の発行などを考えている。心ある同志の賛同と協力を切に願っている。
2019年3月15日
未来哲学研究所発起人
末木文美士 山内志朗 中島隆博
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